随想録

186. 足裏マッサージ師は語る 2000. 6. 7

― ここに登場するマッサージ師は、 筆者行きつけのサウナで働いている、二十歳そこそこの女性である。 マッサージといいたいところだが、 誤解を生みそうなので、マッサージ師と呼ぶことにする。 なお、ちまたで流行りの足裏診断とは一切無関係。―

〜 しばらく前に、夜、飲み会終わったあと飛ばしてたら、 前のほうで車が事故っちゃったんですよ。で、わたし、 酔っ払ってたから、おマワリさんに捕まったら困るからあ、 車降りて、そいで事故現場行ったら、 事故起こした二人は、もう放心状態。 なにがなんだか全然わかんないみたいで、 おまわりさんに何聞かれても全然しどろもどろで、 だから、あたしがテキパキと
「こう前の車が走ってたら、うしろの車がこう曲がって 云々」
って、カッコよく説明したの。ね、あたしって、男気あるでしょ。

そいで、おまわりさんに、
「エアバック触らせてください!」
って、頼んだんですう。前から、見てみたかったから。
ハハハ、そうですね、自分の車のじゃ、絶対みたくないよね。
そいで、パンパンに膨らんだエアバック触ってみたら、 すっげえ固いの。あれ、痛いんですってね。 バレーボールのアタックをもろ顔面に受けたぐらいだって。 やだよねえ、そんなの。
そうですよね。ハンドルを食らうよりはましですよね。 胸にハンドルの跡ついちゃうんだって。
え?
亀甲縛りみたい? 
ギャハハハハハハハハ.......

― しばし手がお留守になる ―

男気あるって言えば、ほら、なんつうか知らないけど、 女なのに男になっちゃう人いるじゃないですか。 おかまさんの反対。 ― わしもなんつうか知らん ― そういう人がね、飲み屋にいたんですよ。 そいだら、わたし好かれちゃって、その彼だか彼女だかに。 その人、どこからか私の携帯の番号聞いてきて、電話してきたの。
「付き合ってくれ」
って。やですよねえ。いくら胸にさらし巻いて、男のカッコしてたって。 断ったら、

「霞ヶ浦に浮いてやるーーー!!!」

って、おどかすんですよ。もちろん、
「浮けるもんなら浮いてごらんなさいよ!」
って言い返しましたよ。もちろん、浮かなかったみたい。 ちょっと気になったから、しばらくしてその飲み屋で、 あの人どうなった? ってきいたら、 店の女の人と駆け落ちしちゃったんだって、アハハハ。

お客さんで今日最後にしちゃうよ。だって、 あたし一人だし。
え?
ペアの男の先生って、Aさんのことですか?
Aさん、この頃、自分の番が終わると、すぐ帰っちゃうんですよ。 最近、いい部屋に引っ越したみたいで、もしかしたら、 彼女出来たんじゃ、って、ここらへんで評判なの。 前の部屋はゴキブリが巣食うようなとこだったって。
Aさんとペアでやってると、夫婦と間違えられるんで、すっごく嫌。 だって、Aさん、もう35歳なんですよ! ― ギクッ ―
だから、あたし、夫婦ですか、なんて訊かれたら、

「お父さんです!」

って、言ってんです。だって、そんなもんでしょう? ― ギク ギク ギク ギク ギク ―

え? ここ効きます? 肝臓のつぼですよ。徹夜で飲んでた? どこで? 国立? なんでまたそんな遠くで?....

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